贈られた胡蝶蘭の花が全部落ちて、緑の葉だけが残った鉢を前に、手が止まっていませんか。
洋ラン専門店を営む斎藤綾香です。
花の終わった胡蝶蘭は枯れたのではなく、次の季節に向けて休もうとしているところです。
花茎は切るのか、切るならどこなのか。
迷って放っておくうちに、株が弱ってしまう例も見てきました。
この記事では、花茎を切る位置の考え方と、切ったあとの育て方をお伝えします。
目次
花が終わった胡蝶蘭は、捨てずに待ってあげてください
花が落ちても、株はまだ働いています
花が落ちた鉢を見て「もう終わり」と処分される方は、意外に多いのです。
けれど胡蝶蘭は多年草で、株さえ元気であれば、また花を上げてくれます。
私の温室でも、朝5時に見回ると、花を終えた鉢の根元から、根の先が明るい緑色にすっと伸びていることがあります。
その姿を見るたびに、この一鉢はもう次の季節を見ているのだなと感じます。
まず花茎の色を見てください。
緑色でハリがあれば、まだ生きています。
黒や茶色に変わっているなら、傷んでいる合図なので、次の章でお話しする「根元で切る」を選びます。
切る前に、株の体力を見極めます
二度咲きは魅力的ですが、株には確かに負担がかかります。
JAあいち知多のコチョウランの栽培ガイドでも、1年に2回咲かせると株に負担がかかるため、葉が25cmほどで6枚以上ある成株以外は避けたほうが無難とされています。
私が花茎にハサミを入れる前に確かめるのは、次の点です。
- 葉が25cmほどの大きさで、6枚以上ついている
- 葉に厚みとハリがあり、しわや垂れがない
- 花茎が緑色で、根元までしっかりしている
- 根が鉢の中でやせておらず、ふっくらしている
ひとつでも欠けるなら、二度咲きは見送って株を休ませます。
小さな株や、葉がしおれた株は、花後は花茎を根元から切って養生させるのが基本です。
花茎はどこで切る?二度咲きを狙う場合と休ませる場合
二度咲きを狙うなら、下から数節を残して切ります
花茎には節があり、そこに次の花芽になる小さな芽が眠っています。
二度咲きを狙うときは、この節を残して、その少し上で切ります。
切るタイミングは、蕾の半分ほどが咲き終わったころです。
みんなの趣味の園芸(NHK出版)のコチョウランの育て方では、株が大きく葉がしっかりしていれば、下から2〜3節を残して切ると、残した節からまた花芽が伸びてくると案内されています。
花がすっかり終わってからでは、花茎に力が残っていないことがあるので、少し早めが安心です。
節を何番目で切るかは、解説する側によって幅があります。
NHKやJAは2〜3節を残す、園芸メーカーのKINCHO園芸は下から3節目、生産者の宮川洋蘭は4〜5節を残す、という具合です。
私は、株が大きければ3節目の少し上を目安にしています。
節より下で切ってしまうと、芽の出る場所がなくなるので、そこだけは気をつけてください。
株を休ませるなら、根元近くで切ります
弱った株や小さな株、そして花茎が黒く変色してしまった株は、二度咲きを狙わず、根元近くで切ります。
熊本の生産者・宮川洋蘭の解説では、枯れた花茎は根元近くで切るのが安全で、病気の広がりを防ぎながら、株の力を葉と根の回復に回せるとされています。
冬は、二度咲きよりも株の回復を優先する季節です。
寒い時期に無理をさせるより、根元で切って春を待つほうが、翌年の花は素直に上がってきます。
二つの切り方の違いを表にまとめます。
| 項目 | 二度咲きを狙う | 株を休ませる |
|---|---|---|
| 切る位置 | 下から2〜4節を残し、節の少し上 | 根元近く |
| 切る時期 | 蕾の半分ほどが咲き終わったころ。春から初夏が向く | 花が終わってから。冬は特にこちら |
| 向いている株 | 葉が25cmほどで6枚以上ある成株 | 小さい株、弱った株、花茎が黒い株 |
| 次に咲くまで | 2〜4カ月ほど。長ければ1年以上 | 翌シーズン以降 |
宮川洋蘭では、二番花までの目安を、2〜4カ月から長くて1年以上と幅を持たせて案内しています。
二番花は一番花より花数が少なめになりますが、それも自然なことです。
切り口の消毒は、忘れずに
ハサミは、使う前に必ず消毒してください。
ライターの火で刃を軽く炙るだけでも、株から株へ病気をうつすリスクを下げられます。
KINCHO園芸の胡蝶蘭の育て方にも、火で殺菌してから切るよう書かれています。
私は、温室で何十鉢も続けて切ります。
一鉢ごとに刃を炙る手間は、二十年続けても面倒に感じる日があります。
それでも、この一手間を惜しんだ年に限って、株が傷むことが多いのです。
切ったあとの管理|置き場所・水やり・肥料
置き場所は、暖かくて明るい室内が基本です
切ったあとの胡蝶蘭は、寒さと強い日差しが苦手です。
NHKの解説では、必要な気温は18℃以上で、冬は室内の、直射日光が当たらない明るい場所に置くとされています。
JAあいち知多も、10月から5月は室内のレースカーテン越しの光を勧め、最低でも10℃は保つよう書いています。
二番花の芽を動かしたいあいだは、18℃を下回らない部屋のほうが安心です。
玄関の冷えた床や、窓際の夜の冷気は、思っている以上に鉢を冷やします。
初夏から秋にかけては、戸外に出すこともできます。
その場合は遮光ネットで日差しをやわらげます。
遮光率の目安は、NHKが40〜50%、JAあいち知多が60〜70%と幅があるので、葉が焼けていないかを見ながら調整してください。
水やりは「乾いてから」、冬は控えめに
水やりの基本は、植え込み材料がやや乾いてから、鉢底から流れるほどたっぷり与えることです。
NHKでは、夏は多め、冬は少なめを基本としています。
冬は、びっしょり濡れたまま寒さに当たると、根腐れの原因になります。
花を終えた直後は、水やりの間隔を少し長めに取ります。
「かわいそうだから」とこまめに与えるのが、いちばんの失敗のもとです。
水苔の表面が乾き、鉢を持ち上げて軽く感じたら、水をあげるタイミングです。
肥料は生長期だけ
肥料は、株が動く春から秋に与えます。
JAあいち知多では、4〜9月に規定の濃度の2倍に薄めた液肥を月2回、というやり方を紹介しています。
規定どおりの濃さで与えるより、薄めをこまめに、のほうが根を傷めにくいのです。
冬のあいだは、肥料を止めて構いません。
花後すぐに与えたくなる気持ちは分かります。
けれど、まずは水と温度を整えて、株が落ち着くのを待ってあげてください。
次の花芽をつける|秋の夜温と1年のサイクル
花芽は「涼しくなった」と株が感じたときにつきます
胡蝶蘭の花芽は、気温が2〜3℃下がると形成されると、KINCHO園芸では説明されています。
日本では、自然の気温変化で花芽が動くのは5月中旬と9〜10月ごろです。
夏のあいだに葉と根をしっかり育てておくと、涼しくなる秋に、株が花芽をつける余力を持てます。
下げるのは、あくまで2〜3℃です。
冷やしすぎは逆効果なので、最低でも10℃は割らせないようにします。
植え替えは、花後の5〜6月が向いています
花後の管理と合わせて考えたいのが、植え替えです。
NHKでは2年に1回程度、5月上旬から6月下旬が適期とされています。
JAあいち知多も、最低気温が15℃以上になる5〜7月を勧めています。
古くなった水苔は水はけが悪くなり、根腐れの原因になります。
二番花を楽しんだあとや、株を休ませていた鉢は、暖かくなった時期に新しい水苔へ植え替えると、根の張りが変わります。
寒い時期の植え替えは、根が傷んだときの回復が遅くなるので避けてください。
1年の流れを、表で整理します。
| 時期 | 主な作業 |
|---|---|
| 花が終わったころ | 花茎を切る(二度咲きなら下から2〜4節を残す) |
| 5〜6月 | 植え替え(2年に1回程度) |
| 4〜9月 | 液肥を薄めて月2回。戸外なら遮光する |
| 9〜10月 | 涼しくなり、花芽が動きやすい時期 |
| 10〜5月 | 暖かい室内で、明るい日陰に置く |
芽が動かないとき、花茎が傷んできたとき
節から芽が出ないときは、あわてず様子を見ます
切って1カ月たっても、節が動く気配がない。
そんなとき、つい鉢を動かしたり、水をあげすぎたりしがちです。
けれど、二番花までの目安は2〜4カ月と幅があるので、花茎が緑色でハリがあるあいだは、環境を変えずに待ってください。
反対に、花茎が黄色く変わり、先から黒ずんでくるなら、二度咲きは諦めどきです。
私は、根元近くで切って、そのまま株を休ませます。
待つ判断も、切る判断も、株の様子を毎日見ているからこそできるものです。
二度咲きを欲張った年の、苦い思い出
若いころ、品評会が近いからと、1年に2回花を咲かせた株がありました。
翌年、その株は葉ばかりが茂って、花茎を上げてくれませんでした。
JAあいち知多の注意書きを読むと、あの年の株の疲れがよく分かります。
以来、二度咲きはしっかりした成株だけに絞り、迷ったら株を休ませています。
花は来年も咲きます。
急がなくても、蘭はこちらの手入れを見ていてくれます。
まとめ
花が終わった胡蝶蘭は、捨てる前に、株の状態を見てあげてください。
葉が25cmほどで6枚以上ある元気な株なら、下から2〜4節を残して二度咲きに挑めます。
小さな株や弱った株、花茎が黒い株は、根元近くで切って休ませるのが、いちばん確かな方法です。
切ったあとは、18℃以上の暖かい室内で、水は乾いてから、肥料は春から秋だけ。
5〜6月には植え替えをして、秋の涼しさで次の花芽を待ちます。
一鉢に宇宙を見る、というのが私の口ぐせです。
花が終わったあとの静かな時間にも、その宇宙は続いています。
あなたの蘭は、次はどんな顔を見せてくれるでしょうか。
花が終わった今日が、その始まりです。
